サマーキャンプ
作者:川上
嫁不足解消のため日本の女児を誘拐する外国人犯罪グループのニュースを見な
がら、娘は誘拐されても役立たずで殺されるだろうと溜息をつく亜紀。娘の美
里は小学4年生。夏休みに入った途端一日中ゲーム三昧。図太く、いくら亜紀
が怒っても平気。亜紀は美里の幼馴染・翔太の母の勧めで、翔太と一緒に「精
神鍛錬キャンプ」に美里を参加させることにした。翔太は素直だがおとなしい
男の子。
新しいゲームを買う約束で両親と外出した美里は、集合場所でリュックを渡さ
れ、初めて本当のことを知る。何かあったらリュックにつけた防犯ブザーの紐
を引くよう話す亜紀をふてくされて無視する美里。
キャンプ場に着く。スタッフリーダーの小暮から、山奥で一番近い人家まで半
日はかかる事、自分の事は自分でやる等の話がある。何もかも自分でやる上に
ゲームができない?即座に脱走を決意し、隙を見つけて逃げ出す美里。追いか
けてきて、戻るように言う翔太を無視して山を下りる美里。
山道にトラックが現れる。連れ戻しに来たスタッフと思い、茂みに隠れる二人。
車から降りた男達は、キャンプに来た子供達の誘拐計画を相談し始めた。午後
8時決行。現在午後4時。キャンプ場に戻り、スタッフに知らせようと言う翔
太に、自分たちまで捕まったらバカらしい、私は麓の警察に行く、と美里。
声に気付いた男達が茂みを探し始めるが、二人から遠ざかっていく。ほっとし
た時、大音量のブザーが鳴る!美里の防犯ブザーの紐が茂みに引っかかったの
だ。ブザーをもぎ取り、男達の方に走っていく翔太。男たちに捕まり、車で連
れ去られてしまう。
麓へ向かおうとした美里の足がブザーの残骸を蹴る。それをしばらく見て踵を
返す美里。
小暮に事情を話すが相手にされず、脱走した罰として、管理棟の一室に軟禁さ
れる美里。高窓から部屋の外へ出ることに成功する。
既に7時半過ぎ。大量の花火に火をつけてスタッフ達の注意をそらし、管理棟
の電話で110番する美里。だが小暮に見つかり、電話を切られてしまう。
トラックで到着した男たちに親しげに近づく小暮。小暮は男達の仲間だった。
スタッフ、キャンプ参加者は皆トラックに押し込まれる。
突如パトカーが現れ、小暮達は逮捕される。美里の防犯ブザーはGPS機能付で、
ブザー鳴動と同時に保護者の携帯に緊急連絡が入る。緊急連絡後、信号が途絶
えたのを不審に思った両親が警察に届け出たのだった。翔太も男達の車から発
見された。
<作者からのコメント>
この度は私の作品を選んでいただきありがとうございました。入賞に向けて、
ぴこ蔵師匠をうならせるあらすじを作ろうと努力してきました。だから、入賞
したことは素直に嬉しく、喜んでおります。
実際、師匠をうならせるあらすじだったのかは講評に譲るとして、これだけ真
摯に、何より楽しみながら作品作りに向き合える機会を与えて下さったぴこ蔵
師匠に感謝しております。
またの機会がありましたら、是非参加したいと思います。
●講評
エンタメストーリーのあらすじには、
物語の内容が分かりやすく、
その面白さの核心が迅速かつ正確に伝わることが求められます。
「サマーキャンプ」ではその大前提がよく守られており、
少ない文字数の中でどこを書き、何を省略するべきかが
ていねいに考えられた構成になっています。
しかも、テンポが良くて面白い! あらすじの王道ですね。
主人公は子どもですが、その行動がリアルなので説得力があります。
しかも、切り札の伏線、主人公の成長、障害物と努力など、
物語を盛り上げる要素がしっかりと配置されています。
とくにオープニングでは「敵」が伏線としてさりげなく姿を見せており、
それが主人公のキャラと見事に結び付けられています。
また「切り札」も『ウザい存在』という隠れ蓑をかぶって登場しています。
川上さんの、あくまでも基本に忠実に
身につけた技術を一つ一つ確実に生かしていく姿勢を
高く評価したいと思います。
Feeeeeel! my heart
作者:むうむう
主人公:翔子(しょうこ)は、ブルース・リーが大好きな女の子。
学校の少林寺拳法部に入っていて、めっぽう強い。
映画『死亡遊戯』でブルース・リーが着ていたのと同じデザインの「トラック
スーツ」を大事にしていた。
それを着て外出したいという欲求があるのだができずにいて、部屋でこっそり
着てみるだけに止めていた。
彼女は、同じ部活の加藤君と付き合っていた。
彼はブルース・リーそっくりの顔立ちをしていたが、全然強くは無かった。
人柄は良いんだけど。
その日、翔子は加藤君と一緒に夏祭りに行くことになっていた。
浴衣に着替えていた翔子は、部屋に置いてあったトラックスーツがなくなって
いることに気づいた。
彼女の趣味に理解のない母親が、勝手に部屋の掃除をしたついでに、処分して
しまったのかもしれない。
母親を問い詰めると、あっさり持ち出したことを認めた。
しかも、加藤君が留守中にやって来て、引き取っていったというのだ。
二人が付き合っていることを知っている母親は、疑いもせず渡してしまったの
だった。
夏祭り会場である神社の境内の隅で、加藤君は待っていた。
加藤君は翔子に、僕のことが好きなのか、それともただブルース・リーに顔が
似ているから付き合っているのか、問い詰めた。
顔がそっくりだけど全然強くないことや、そのことで昔からからかわれてきた
せいで、加藤君はブルース・リーに対してコンプレックスを抱いていたのだ。
しかも彼女の翔子はことあるごとにリーへの愛を語っており、ずっと不安に思
ってきていた。
彼女の大事なトラックスーツは、加藤君にしてみれば恋敵の象徴に他ならない
のだった。
翔子が答えようとしたその時、学校の不良たちが現れて絡んできた。
とっちめてやろうとしたが、浴衣なのでうまく動けず、殴られてしまう。
加藤君は震えながらも必死になって、翔子を逃がそうとした。
トラックスーツと共に、翔子は一人その場を逃れる。
駆けながら翔子は、今がチャンスだと思った。
翔子は木陰に飛び込むと、着ていた浴衣を脱ぎ捨て、トラックスーツに身を包
んだ。
そして不良たちにやられている加藤君のもとへ現れた。
翔子の姿に不良たちはあっけにとられたが、次第に嘲笑に変わり、翔子へ襲い
掛かった。
翔子は、アチョーと大立ち回りを演じ、退治した。
衆人環視の中、翔子は加藤君に気持ちを伝える。
「考えないで。感じてよ。私の気持ち」
キスをする。
花火が上がる。
<作者からのコメント>
入賞できると思ってなかったので、とても嬉しいです。
今回は型通りに物語ろうと思って作ったのですが、なかなかうまくいかなくて
苦労しました。
とりあえず見せ場を意識してまとめてみました。
これからはEDWORD2で沢山お話を作っていきたいと思います。
●講評
短篇読みきりマンガのあらすじです。
みなさん苦労されていることと思いますが、
どんでん返しを入れたストーリーをこのサイズにまとめるのは難しいのです。
「犯人は母親だと思っていたらカトー君だった」というどんでん返しを
わりと早い段階でネタばらししてサスペンス色を薄め、
クライマックスにたっぷり紙面を割く作戦がハマリました。
クライマックスの前半はラブストーリー的な「犯行動機の告白」です。
それが後半では一転してカンフーアクション!
この2種類のお楽しみを使った緩急が面白いと思います。
マンガとしてはカンフーの大立ち回りが見せ場。
書きたいことをついつい書いてしまいがちなシーンですが
むうむうさんは「読みたいものを書け」という金言に従って
詳細をバッサリ切り捨てました。あらすじとしてこれが大正解です。
ラストシーンもお見事。「Don't think,Feeeeeeel!」
あの往年の名台詞が最後の場面でばっちりハマっています。
ぜひともしょこたんに読んでもらいたいですね(^^
真夏の熱き夢
作者:SORAO
小さい頃からナミは夏の高校生クイズ大会に参加することが夢だった、
しかし高校1,2年生の時は諸事情で参加できなかった。
今年がラストチャンスだ。親友のユカリとトモとのチームで参加を決定。
当日、会場前で待ち合わせ、受付開始時間9:30の1時間前を待ち合わせ時
間に決めた。
ナミとトモは時間通りに着いたが、ユカリは時間を過ぎても来ない。
ユカリの携帯にも家にもかけたがどちらも留守電だ。
ユカリの彼氏シンゴの携帯にかけてみるとユカリが昨日母親と大喧嘩して、
母親が大会には参加させないと言っていたと教えてくれた。
受付締切時間10:30までに受付を済ませないと参加できなくなる。(現在
8:50)
ここから原付で10分のユカリの家に向かう。しかし家には誰もいない、
隣家の奥さんがユカリ母は派手なトラ柄のシャツを着てアーケードに出かけた
と教えてくれた。
原付で5分の所にあるアーケードに着くが広すぎるので案内所から呼び出しを
かけてもらうが反応がない。(9:40)
焦るナミの横でトモが携帯を見て「いた!」と叫ぶ。
トモは携帯のネットからツイッターのアーケードの情報が集まる所に
<トラ柄シャツ40代女性アーケード内で探しています>と書き込んでいて
<○×カフェで発見>という情報が入ったのだ。
○×カフェでユカリ母を発見、しかしユカリ母は、ユカリが嫌がっていた塾に
行くと約束したので参加を許した、
ユカリは8時に家を出たと言う。
未だにユカリの携帯は留守電だ。(10:00)
ナミはもしかしたらと思い、ユカリのツイッターを見た。
5分前のつぶやき<彼氏とインターネットカフェなう!>
ユカリがよく行くインターネットカフェはアーケード内にある、
2人はインターネットカフェに駆け込みユカリとシンゴを発見する。
シンゴは人に頼る傾向のあるユカリの性格を利用して、大会は明日だと信じこ
ませ、
デートでの携帯を禁止して、大会に参加させないように仕向けたのだ。
シンゴはTVにユカリのかわいい姿が映ったらユカリに目をつけた男達が寄って
きてしまうじゃないかと言う。
ユカリを離さないシンゴにナミはバックからタイガーマスクを3つ取り出す。
大会には受狙いでマスクをかぶって参加すると決めていたのだ。
顔を出さないことでシンゴを納得させ3人はタクシーに飛び乗る。
3人が受付を済ませたのは受付締切時間1分前だった。
<作者からのコメント>
今回は「E2夏の陣」に入賞でき嬉しく思っています。
(夏の風物詩)を考える時、個性的な夏の風物詩にしたいと思いました。
そして私の中に浮かんできたのが<高校生クイズ>でした。
私は特に地方大会のTV放送が好きでよく見ていました。
以前放送で受付締切の様子が放送されたことがあって、
そこに仲間が締切時間前になっても現れずオロオロしている高校生の姿があり
ました。それが今回書いたあらすじの発想点です。
TVで見る高校生クイズの高校生達はとても眩しいです、その眩しさを物語りと
して紙の上に表現できたら、
それを読む人にも楽しくおもしろく伝えられたら最高です。
今回の入賞を糧におもしろい物語をもっと作っていきたいです。
●講評
夏のノンストップ青春友情コメディですね。
タイムリミットを使って生み出したテンポの良さに感心しました。
何といってもこのあらすじは
お題である「夏の風物詩」のユニークさと説得力で群を抜きました。
コンペでは目立つことが大事なんですよ、本当に。
そんなわけで『高校生クイズ』とはまた最高の素材ではありませんか。
こういう「目的を持った人が集まる」大きな舞台を発見できると、
大人数の青春群像劇だってどんどん展開できるわけです。
ゲラゲラ笑いながら読むための作品ですが、
タイムリミットが効果的に使われているため
ジェットコースターのようなスピード感のあるストーリーになっています。
この物語に、もう1本か2本、同じように焦っている登場人物や
他グループのストーリーラインを加えるとさらに面白くなると思います。
障害物クリアのための切り札であるトラ三昧には大感動しました(^^
特に3組のタイガーマスクには笑いました。
時間制限の緊張を緩和するワンポイントとしても役立っています。
夏の雪だるま
作者:あやぽんくん
夏休み、小学生のトオルは堤防で雪だるまと出会う。
背はトオルよりも低く、体はボーリングのピンの如く痩せ細っている。
雪だるまは、生命維持装置である氷柱のお守りを盗まれたために家族も友人も
皆消えてしまい、
彼らを生き返らせるためにお守りを取り戻しに行くところだった。
盗んだ犯人は水平線の向こうにいるので、どうやって海を渡ろうか堤防の上で
思案していたというのだ。
トオルは家まで走り、冷凍庫にあった氷を全て持ってきて雪だるまに見せたが、
人工の氷には何の力もないと言われる。
仕方ないので、漁から未明に帰宅した父親がまだ寝ているのを確認して漁船の
鍵を盗み出し、雪だるまを船に乗せた。
何度も漁に連れ出されていたトオルは操縦の仕方を知っていた。
暑い、急いでくれと滝の汗を流しながら懇願する雪だるまに急かされ出航。遥
か前方には巨大な入道雲が聳えている。
もっと速く、と叫ぶ雪だるま。船は全速力で沖へと進む。トオルの足元にまで
雪だるまの汗が広がっていた。
ずいぶん遠くまで来た。陸が見えない。風が強く吹き、波を切る船体が大きく
揺れた。
視線のずっと先にあったはずの入道雲がぐっと近づき、その背後には黒い雲が
見えた。
トオルは不安になった。このまま進めば嵐へ突っ込んでしまう。そしたらお手
上げだ。
怖くなって速度を落とした。途端に雪だるまが喚き出す。
会った時の半分もない細い体、二つの眼窩は縦に伸び、への字に曲がった口を
大きく開けて、速くしろと叫んでいる。
水平線の先にいる犯人とは一体どんな奴なのかと問うと、雪だるまは瓶のよう
に細い顔を上に向けた。
二つの暗い穴が見つめる先は入道雲だった。
トオルは引き返した。喚き、口汚く罵り始める雪だるま。あれは雪山じゃない
んだと言っても全く聞かない。
船室は水浸しだ。
その時、トオルは透ける雪だるまの腹部に幾つもの光る物を見た。
小さくなった氷柱だった。
見る見る体を縮めながらありったけの呪詛を吐き出す雪だるま。
トオルは船のエンジンを止めた。
死にたくない、と残り少ない雪を涙に変えて嘆き始める雪だるま。
春から夏にかけ、家族や仲間達の氷柱のお守りを奪い生き残ってきた雪だるま。
気付いたら独りぼっちだった。
奪いまくった幾つもの氷柱も暑さで次第に小さくなり、寂しさと死の恐怖から
一緒に死ぬ仲間を探していたのだ。
トオルはチョーク程になった雪だるまを氷柱ごと手で掬い、そっと海に放った。
冬にまた会えることを祈って。
<作者からのコメント>
この度は、私の拙作を受賞させて頂き有り難うございます。
正直、ツッコミ所が満載の今回のあらすじでは、E2ゲットにはとても及ばな
いと思っておりましたので、
受賞を知った時は嬉しかったです。
どちらかといえば、私は人間の欲や闇をテーマにした物語を書くことを好むの
ですが、
今回は「夏」をモチーフにということでしたので、少し明るく、でも若干のホ
ラー要素を取り入れてちょっと不気味な……と考えて、
このようなあらすじになりました。
なので、不慣れな分野に手を出す形になりましたが、挑戦する意味でも、今回
の夏の陣は大変勉強になりました。
戴いたEDWORD2に頼り過ぎず、上手く利用して、今後も色々な物語を作
っていこうと思います。
本当に有り難うございました。
●講評
他の季節と違って夏には「何かが滅びていく」イメージが強いように
私には感じられます。
そんな「夏の終わり」は、体が楽になるのでほっとすると共に、
暑熱が引いていくのがなぜか寂しく感じられる季節でもあります。
優れてポエジーな作品は他にもいろいろありましたが
最終的にこの『夏の雪だるま』を選んだ最大の理由は、
そんな夏らしさの特徴である「喪失感」がくっきりと描かれていたことです。
子供向けのほのぼのとしたお話かと思っていたら、
どんでん返しで雪だるまその人が「悪」であることが判明し、
彼の行った悪事の凶暴さが描かれます。怖ろしくも切ないのです。
しかしその結果、雪だるまは孤独の中でのたうちまわることになります。
仲間を裏切った彼の喪失感は誰も埋めることが出来ません。
たとえ一緒に死んでくれる人がいても、死はやはり個人的な体験です。
いつか誰もが個人的な体験として「大切なひと」を失う時が来ます。
人生の残り時間は残酷にも有限なのですが、
その痛みを癒してくれるのもまた「時間」なのです。
海、入道雲、溶けていく氷柱。どことなく怖さを漂わせながらも、
さわやかな喪失感が一瞬の夏を心に焼き付けてくれました。
1つのテーマに絞りきったことが勝因です。
スイムウェア
作者:高山
俺は世界を狙える競泳選手。クールな笑顔と均整のとれた肉体美。マスコミ
も言い寄る女も数知れず。優勝などはあくまで前提。俺の興味はタイムの更新。
今日は彼女の誕生日。二つを手にして彼女の心もゲットだぜ。なにより俺は最
高の水着を手にしている。オリンピックでも数多くの新記録を生み出した例の
水着。それをさらに改良した新型だ。競技の30分前。練習用から本番用の水
着に着替え臨戦態勢を整える、つもりが水着がない!更衣室のバックの中にあ
ったはず。そういえば一人奴が更衣室から出てきたのをみかけたとの情報が。
奴とは――認めたくはないが俺のライバル。弱小校ながら鬼気せまる気迫で俺
の記録に猛追してきたあの男。前回大会の敗戦後、眼光鋭く俺を睨み付けてい
た奴。同じ水着で勝負していたのなら奴がタイムで勝っていたとも囁かれてい
る。どこだ?どこにいる!競技まで時間がない。あてもなく会場を探しまくる。
探せど探せどみつからない。その間、俺を見かけてはファンの女子からのサイ
ン攻勢、マスコミも競技前の質問攻め。クールな俺は慌てたそぶりなど見せら
れない。余裕をもって対応せねば。そんな自分のキャラが今は憎らしい。しか
もこう見えて俺は小心なのだ。水着の紛失のあせりとプレッシャーで腹痛が。
うーん、トイレ、トイレ。とそのとき、そこで奴とはち合わせ!「この野
郎!」思わず奴のジャージを脱がし身ぐるみ剥がす。が、着ていない?!てっ
きり俺の水着を盗んで着用、それで挑んでくるものと・・・。ではいったい誰
が!?。タイムリミットが押し迫る。振り出しに戻る。誰だ誰だ誰なんだぁ~
~!更衣室で頭を抱える俺のもとへ奴が現れる。なんだ、俺を笑いにきたの
か?と、やつの後ろに俺の彼女。「ごめんなさい!」いきなり頭を下げる。な
んと!彼女は奴の学校のマネージャーだった。弱小校の母校が今回の大会でい
い成績を残せないと廃部になってしまうらしい。切羽詰まった状況。盗んだも
のを使ってでもいい。なんとしても希望の星たる奴に勝ってもらいたい!それ
よりなにより彼氏たる奴に勝ってもらいたい一心で。なに!奴が本当の彼
氏?!しかし奴はそれを拒み実力で勝つと言い放ったらしい。めらめらと燃え
上がる俺。よし!ならば俺も水着に頼らず実力で勝つ!そして彼女も奪い取
る!クールな俺が熱血か。二人の男が二つ(新記録、彼女)を賭けて、今、真夏
のプールサイドに相まみえる。
<作者からのコメント>
この度は入賞作品に選定頂きましたことに少々驚いております。というのも私
が応募をしてよりほどなくして届いたメールの中に「ショートショートではな
く、あらすじを書いて応募してください」とあったので。この時すでに応募し
たものがどことなくショートショートな風味漂う、というか風味濃厚な一品だ
ったので。「うーん、参った」ほかにもいくつか投稿用のものを構想していた
んですが全てショートショート全開で。で「ああ、こりゃだめだ」と。でもま
あ、それでもよかったんです。いろいろと構想を練っているうちに「これな
ら」と思えるものが書けそうになったので。ですが、そうしたものは得てして
挫折してしまいがちなんですよね。そんな時にこうした入賞というカンフル剤
を偶然とはいえ頂ける事には、うれしさとありがたさを感じております。まだ
まだ下手の横好きですが、完成をめざし鋭意執筆したく存じます。ありがとう
ございました。
●講評
オチにあたるパートがないのでショートショートとまでは言えませんが
確かに「あらすじ」を書く時にはあまり見かけない叙述方法です。
一人称による饒舌体は、むしろ「落語」などの「語り」の芸に近いのでしょう。
しかし、あらすじの段階では文体などは問題ではないのです。
自分が語りやすい方法でどんどん語ればよろしいわけであります。
この作品も、初心者が、勢いだけで物語の構成など気にもかけず、
思いつくままに言葉を吐き出したように見えるかもしれませんが、
構成をチェックしてみれば、すぐにそれが間違いだと分かります。
どんでん返しは言うに及ばず、「主人公の成長」も「タイムリミット」も
奪還すべき「大切なもの」も「明確な対立軸」も、
面白い物語のための基本要素は驚くほどきっちり押さえられています。
その上で、立て板に水の饒舌体で一気に語りおろしているわけです。
つまり作者は、全てを構築したものをいったん頭の中に入れて、
次にそれをスピードに乗せてアウトプットしたのであります。
ちゃんと飲み込んでいるからしっかり吐き出せるのです。
基本を大切にする姿勢に伸びしろを感じさせる初々しい作品です。
なによりもこの作品には物語を語ることの喜びを感じました。
今後に期待しています。

